Stener lesionとはMP関節深層にあるUCL(ulnar collateral ligament)が断裂するだけではなく、浅層のadductor aponeurosisまでもが繊維方向に断裂してしまい、UCLの停止部が浅層のadductor aponeurosisを乗り越えて断端がお互いに接することが無くなってしまった状態です(下図)。

 

 

上図も含めてadductor aponeurosisの中枢縁を乗り越えてUCL断端が顔を出すように説明されることが多いですが、実際の術中所見ではadductor aponeurosisの断裂部にUCLが嵌頓している所見しか経験がありません。

 

 

大学の手外科医師に確認したところ、母指MP関節尺側靭帯損傷がStener lesionに至っているのか否かの診断は、ストレス撮影が最も推奨されているそうです。母指MP関節伸展位のストレス撮影で、健側比15度以上の傾斜角度を認める症例では、Stener lesionに至っている可能性が高いのです。

 

 

Stener lesionの症例では、徒手的にMP関節の不安定性を健側と比べると明らかに”グラグラ”なので、ストレス撮影は手術適応を決める際の客観的な証拠固めの意味合いが強いです。

 

 

Stener lesionの診断方法としてはストレス撮影だけではなくMRIやエコーもありますが、費用や再現性の問題からストレス撮影で健側比15度以上の傾斜角度を認めるか否かが最も簡易で分かりやすいと思います。

 

 

尚、ストレス撮影で単なる母指MP関節尺側靭帯損傷をStener lesionにしてしまう可能性は全くゼロではないでしょうが、adductor aponeurosisが繊維方向に断裂していない状態でUCLがadductor aponeurosisを乗り越えることは考えにくいので、常識的な範囲のストレス撮影でStener lesionにしてしまう可能性は低いと考えます。

 

 

Stener lesionの治療は、新鮮例であればUCLの縫合です。裂離骨片を伴う場合にはpull-out wireで固定します。陳旧例では瘢痕化しているUCLを新鮮化して縫縮することが多いです。短母指伸筋腱による靭帯再建や示指伸筋腱による腱移行が選択されることもあるようです。詳しくは、私の手の外科 を参照してください。

 

 

 

 

手の外科は整形外科の中でも習熟するのが難しい分野のひとつです。広島大学名誉教授の津下先生の”私の手の外科”は、手の外科のバイブルと言ってよいでしょう。津下先生直筆のイラストが豊富で、非常にわかりやすいです。一流の外科医は絵も上手であることを強く感じます。

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